東京家庭裁判所 平成2年(少)1584号 決定 1990年3月15日
少年 D・H(昭46.3.8生)
主文
少年を特別少年院に送致する。
押収してあるけん銃一丁(平成2年押第175号の1)、薬莢2個(同押号の14、15)、空薬莢2個(弾頭付き、同押号の16、17)、弾丸1個(同押号の18)及び実包1発(同押号の19)を没取する。
理由
(非行事実)
少年は、
第1法定の除外事由がないのに、平成2年1月30日午後10時ころ、東京都豊島区○○×丁目××番××号付近路上において、自動式けん銃1丁及び火薬類であるけん銃用実包5発を所持し、さらにそのころから同年2月1日午後0時25分ころまでの間、埼玉県所沢市○○×丁目××番×号××号室等において、右けん銃1丁を所持し、
第2東京都知事の許可を受けず、かつ法定の除外事由がないのに、同年1月30日午後10時ころ、東京都豊島区○○×丁目××番××号付近路上において、けん銃用実包2発を発砲して爆発させ、もって火薬類を消費し
たものである。
(法令の適用)
1 上記第1の事実のうちけん銃を所持した点につき、銃砲刀剣類所持等取締法31条の2第1号、3条1項、けん銃用実包を所持した点につき、火薬類取締法59条2号、21条。
2 上記第2の事実につき、火薬類取締法59条5号、25条1項。
(処遇の理由)
1 少年の生育歴、家庭環境、性格上の問題点については、当庁家庭裁判所調査官○○作成の少年調査票及び東京少年鑑別所長作成の鑑別結果通知書記載のとおりであって、少年は、小学校時代から父親の転勤や家の購入等のため頻繁に転校したが、転校先になじむのに苦労したこともあって、新しい環境に入り込むために不良交友と万引をしたり、強い者に従って弱い者いじめをしたりして自己保身の術を身につける一方で、家庭内においては姉との関係で被差別感を抱くとともに、長じるに従って権威的な傾向の強い父親に対する反発を強め、中学校3年生の後半には原動機付自転車窃盗等の非行を立て続けに敢行するなど次第に生活を乱し、中学卒業後入学した山口県岩国市の私立高校も1年で中退してしまったものであるところ、その後父親の紹介で入った道路舗装会社を僅か1か月で退職して上京したものの、定職に就かず、いわゆるキャッチセールスの手伝いをするうちに右翼政治結社を標榜する○○連合会○○とかかわりをもつようになり、同組織の埼王本部事務所のあるマンションに住んで街宣活動に参加するとともに、同組織の顧問であったAを組長とする暴力団○○連合会○○一家○○組内○○組の組員となって活動中、本件非行を敢行するに至ったものである。
2 そこで少年の処遇についてであるが、本件は、少年が偏頗な価値観に基づいて短絡的にけん銃を発砲したもので、悪質かつ重大な事案であること、周辺住民や社会に与えた影響も看過し得ないこと、背後に右翼団体及び暴力団の存在が窺われること等に照らせば、少年についてはこれを刑事処分に委ねることも十分に考えられるところであるが、少年は、これまで一般事件で保護処分に付されたことがなく、系統立った矯正教育を受けた経験がないこと、右翼思想そのものについては体系的な理解ができておらず、むしろ家族的人間関係を求める少年にとって極めて居心地の良い場所として上記右翼団体や暴力団に親和していたふしが認められ、今後父子関係を中心とする家族関係が改善されればなお健全な生活に立ち戻る可能性があること等の諸事情に鑑みれば、少年については更生のための最後の機会として施設内での矯正教育を施すことが相当である。
3 以上の次第であるから、この際少年についてはこれを特別少年院に収容して暴力団組織等との関係を断ち切るとともに、専門家の綿密かつ体系的な指導の下、健全な価値観や自己統制力を養うとともに、自らの将来を考えさせ、正しい生活習慣を身につけさせるのが相当であると思料する。
4 なお、上述した少年の生育歴や資質上の問題点等に照らせば、少年の矯正には相当長期にわたる強力かつ緊密な指導が必要であると思料されるほか、反社会的組織からの離脱のためには父子関係を中心とする家族との環境の調整を図りつつ、強い者に依存せずに生活できるような自信を身につけさせる必要があると思われるので、少年の具体的な処遇についてはこれらの点を考慮して指導されたい。
5 よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項、少年院法2条4項を適用して少年を特別少年院に送致することとし、没取につき少年法24条の2第1項1号、2号、2項本文を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判官 下山芳晴)
平成2年3月28日
東京保護観察所八王子支部長殿
東京家庭裁判所
裁判官 下山芳晴
少年の家庭環境の調整に関する件
本籍 東京都国立市○○×丁目×番地の××
住居 同上(本件時:埼玉県所沢市○○×丁目××番×-××号)
職業 会社員(植木リース業下請け)
氏名 D・H
昭和46年3月8日生
上記少年は、別添決定書謄本のとおり、平成2年3月15日当裁判所において特別少年院送致の決定を受けたものであるところ、少年については少年院における矯正教育に続く在宅処遇段階がその更生にとって特に重要な意味をもつことになると思料するので、少年の在宅処遇の条件を整えるため、少年の家庭環境の調整に関し、下記の措置を執られるよう、少年法24条2項、少年審判親則39条に基づき要請致します。
記
東京保護観察所八王子支部長は、環境調整の措置として、以下の措置を執ること。
1 少年の父親に対し、少年院への面会、少年との文通等により、少年に対し温かい気持ちをもって接し、少年との意思の疎通と少年の心情の理解を図るよう指導・援助すること。
2 少年の仮退院後の環境及び進路の調整につき、保護者を指導・援助すること。